
Day1:クライアント対応の基礎と境界線の整え方
迷いなく、丁寧に、継続につながるクライアント対応を。
今日は土台となる「用語の違い」と「境界線」、そして初回相談での期待値調整を押さえます。
スピリチュアルな価値観を尊重しつつも、過度に背負い込みすぎない“健全な距離”を設計しましょう。
目次
5つの用語の違いと境界線
まずは「相談・対話・カウンセリング・コーチング・ティーチング」の違いを整理します。
言葉の定義が曖昧なままだと、提供範囲が広がりすぎ、過剰な期待やトラブルの元になります。
下表は保存版です。
印刷して手元に置いておきましょう。
用語 | 目的 | 関わり方 | 境界線(しないこと) | 成果の扱い |
---|---|---|---|---|
相談 | 状況把握・方向づけ | 短時間の助言と情報提供 | 診断・治療行為の示唆 | 次の行動を一つ明確化 |
対話 | 気づきの促進 | 相互に問い、意味づけを深める | 価値観の押し付け | 合意したテーマの理解が深まる |
カウンセリング | 心理的課題の軽減 | 傾聴・感情の整理・対処の検討 | 医療的治療の代替 | 安全な場と小さな変化 |
コーチング | 目標達成・行動変容 | 質問で自己発見を促す | 解決の押し付け、過度なアドバイス | 行動計画とコミット |
ティーチング | 知識・スキルの伝達 | 解説・手本・練習 | 学習者の主体性の軽視 | 理解度テストや実践課題 |
支援の3要素モデル(傾聴・探求・提案)
複数の手法を横断しても揺らがない、汎用型の進め方が下記の「3要素モデル」です。
60分の枠でも90分でも流用できます。
1) 傾聴(Listening)
- 沈黙を恐れず、語りの速度に合わせる。
- 感情語(嬉しい・怖い・悔しい等)を拾って「今ここ」に戻す。
- 評価・診断めいた言い換えは避け、事実と感情を分けて反射。
2) 探求(Inquiry)
- オープンクエスチョン→スケーリング→具体化の順に深める。
- 信念・価値観・体験(スピ的含意)を尊重し、否定も同意もしすぎない。
- レッドフラッグ(自傷・他害・急性症状など)の気配に留意。
3) 提案(Suggestion)
- 選択肢を2–3に絞り、本人の選好で選んでもらう。
- 家庭での練習課題は“小さく・安全に・可視化できる”ものから。
- 次回提案は価値と適合性を説明し、無理なクロージングはしない。
同意・守秘・注意喚起のテンプレ
初回の案内文・同意フォーム・守秘ポリシーは、境界線を守る安全装置です。
以下の雛形をコピーしてお使いください(各自の実務に合わせて修正)。
① 境界線と提供範囲の宣言(例)
【提供範囲とお願い】 ・本セッションは医療・法務・投資等の専門的な助言・治療を目的としません。 ・必要時は医療機関・公的窓口・専門家へのご相談をご案内します。 ・個人情報は目的の範囲で最小限取得し、保存期間は○か月です。 ・録音/録画の可否:□可 □不可(許可無き公開は禁止)
② 守秘と個人情報の取り扱い(例)
【守秘とプライバシー】 ・セッション内容は守秘します(法令上の要請・安全確保を除く)。 ・匿名化ルール:固有名詞は記録時にイニシャル化します。 ・削除依頼窓口:contact@example.com
③ リファー(専門機関紹介)の基準(抄)
- 直近2週間で睡眠/食事が著しく不良、または自傷他害の恐れ
- 慢性的なフラッシュバックや解離症状が疑われる
- 法的問題(DV/虐待/ストーキング等)の兆候がある
※実務では地域の保健所、女性相談、精神科・心療内科、法テラス等の連絡先を一覧化しておくと安心です。
初回相談の期待値調整スクリプト(冒頭5分)
以下は冒頭で「役割・範囲・今日のゴール」を素早く合意するための台本です。
読み上げ口調でOK。
必要箇所をあなたの言葉に置き換えてください。
【0:00–0:30】挨拶と安心の確認 「本日はありがとうございます。ここでは安心してお話しいただけるよう、守秘と尊重を大切にします。」 【0:30–1:30】範囲とゴールの明確化 「私は○○(講師/コーチ)として、今日の60分で『現状の整理と次の一歩』を一緒に見つけます。医療や法的な判断は行いません。」 【1:30–3:00】期待値の合わせ込み 「すべてを一度で解決するより、まずは小さな変化に焦点を当てます。終わりに、ご自宅でできる安全な練習を1つ決めましょう。」 【3:00–5:00】同意と質問の確認 「ここまでで不安や質問はありますか?本日の進め方にご同意いただけますか。」
データで見る:小規模統計と参考公開データ
数字は安心と改善の指針を与えます。まずは手元の記録から“今”を見える化し、次回以降に改善していきましょう。
自社・教室のミニ統計(サンプル:差し替え推奨)
指標 | 定義 | 測定方法 | 直近値 | N |
---|---|---|---|---|
初回満足度 | 5段階平均 | 終了時アンケ | 4.6/5 | 38 |
継続意向 | 「続けたい」割合 | 終了時アンケ | 79% | 38 |
No-show率 | 無断欠席/予約数 | 予約台帳 | 3% | 124 |
※上記は入力例です。
あなたの実データに置き換えてください(N=件数を明記)。
少数データは±数%のブレを含みます。
公開データ(参考リンク)
- 相談・メンタルヘルス関連の公的相談窓口(自治体/厚生労働省など)
- カウンセリングの満足度・継続に関する研究(大学・学会リポジトリ)
- 面接評価や同盟感(Working Alliance)の尺度紹介(学術機関)
具体的な数値は次回の最適化回(Day4)で、ダッシュボード雛形とともに扱います。
まとめと次のステップ
今日のポイントは、(1) 用語の違いと境界線を明確にする、(2) 支援の3要素モデルで進め方を共通化する、(3) 同意・守秘・注意喚起をテンプレで先回りする、(4) 冒頭5分のスクリプトで期待値を整える、の4つでした。
これらは“気持ちの優しさ”を“実務の確かさ”に変える土台です。
まずは雛形を自分仕様に整え、1週間で3名に試して小さな改善点をメモしましょう。
次回(Day2)は「設計:事前ヒアリングと契約・同意のドキュメント」。No-showを減らす予約導線とレッドフラッグ基準を作ります。
FAQ
- Q. スピリチュアルな話題をどこまで扱って良い?
- A. 信念の是非を裁かず、体験の意味づけを尊重します。同時に、医療・法務領域へ踏み込む判断はしません。議題が変わる場合はセッションの目的を再合意します。
- Q. 相談の場でアドバイスを求められたら?
- A. まずは傾聴と要約で理解を確認し、選択肢を2–3に絞って提示。本人の選好で選んでもらう姿勢を保ちます。
- Q. 期待が膨らみすぎたクライアントへの対処は?
- A. 冒頭スクリプトで「小さな一歩」を再定義。役割と提供範囲を丁寧に言語化し、必要なら次回枠や専門機関を提案します。