
スピ系講師は「教えられない」のか?—悪循環の正体を分解する【Day1】
「スピ系講師はきちんと教えられないのでは?」という不安や不満は、個人の資質だけでなく学習設計と場づくりの欠落からも生じます。
本記事では、教える=学習を成立させるという立場から、質問できない/答えられない/わからないまま教えるという悪循環を丁寧に分解します。
感情的な“本物/偽物”論争ではなく、学習成果という客観軸で捉えるための土台を提供します。
教えるとは何か(学習成立の条件)
多くの講師が誠実に準備をしていても、受講生の側では「できるようにならない」「質問しづらい」という体験が残ることがあります。
ここでの鍵は、知識伝達=学習成立ではないという事実です。
学習成立には、①明確な目標、②適切な活動、③妥当な評価、④安心して試行錯誤できる場、の4要素が必要です。
いずれかが欠けると、スクールでは教えられないレベルの人が教えて、できない人しか育たないという構造的な不具合が起こりやすくなります。
学習の4段階と「無意識的有能」の落とし穴
段階 | 状態 | 講師のつまずき |
---|---|---|
無意識的無能 | できない自覚がない | 難易度設定が甘くなる |
意識的無能 | できない自覚がある | 羞恥で質問が止まる |
意識的有能 | 意識すればできる | 練習の場・フィードバックが不足 |
無意識的有能 | 自然にできる | 言語化されず教科化できない |
講師が上級者であるほど「無意識的有能」に偏り、なぜできるのかの言語化が置き去りになりがちです。
このとき、質問に答えられない印象を与えたり、わからないまま教える悪循環を生みます。
ポイント:授業の準備時間を「内容づくり」と同じだけ「評価と場づくり」に振り分ける。
これだけで“質問できない教室”は大きく改善します。
「本物/偽物」ではなく学習成果で測る
「本物のスピ」「偽物のスピ」というラベルは議論を過熱させますが、受講生にとって重要なのは学習による変化です。
講師は主張や肩書ではなく、成果の可視化で信頼を獲得できます。
行動指標とミニ成果の設計
- 行動動詞で目標を書く:「理解する」ではなく「○○を3分で説明できる」「△△の手順を5項目で列挙できる」。
- ミニ成果を刻む:45〜90分ごとに小テスト/デモ/ペア練習を配置し、できた実感を短周期で積み上げる。
- 評価の透明化:ルーブリック(初級/中級/上級)で基準を事前に共有。
- 質問の設計:「曖昧→具体化」への誘導質問テンプレを配布し、質問の仕方自体を教える。
「質問できない」5つの壁
- 心理的安全性の欠如:間違いを笑う/否定する雰囲気がある。
- 同調圧力:少数が「わかった」と言うと、他も黙る。
- 曖昧な目標:「何ができればOKか」が共有されていない。
- 評価の不在:理解チェックや振り返りがない。
- 場の設計不足:ペア/小グループ/匿名質問箱などの導線が用意されていない。
これらは個人攻撃ではなく、設計で解決できる課題です。次回Day2では、逆向き設計で「質問が生まれる講座」の骨組みを作ります。
自己診断チェック10(今日から可視化)
FAQ
Q. 「本物/偽物」をどう見分ければ良いですか?
A. ラベルではなく学習成果の提示で判断しましょう。
目標・評価・成果物(受講生の作例や説明動画)が公開されているか、再現性や透明性で見るのが有効です。
Q. 受講生が「質問できない」空気をどう変えますか?
A. ①匿名質問導線、②ペア/小グループ先出し、③間違い歓迎のルール掲示、④講師の失敗談の共有、をセットで行いましょう。
最初の10分の空気設計が要です。
Q. 質問に答えられない時はどうすれば?
A. 即答できないこと自体は不誠実ではありません。
言語化フレーム(用語定義→具体例→反例→手順→注意点)で整理し、必要なら「次回までに検証して共有します」と明言・記録しましょう。
まとめ
“教えられない/できない/質問できない/答えられない”という不安は、個々の能力不足だけでなく、学習目標・評価・活動・場づくりの設計不足から生まれます。
ラベル論争ではなく、学習成果で語る姿勢が信頼を育てます。
まずはチェックリストで現状を可視化し、次回Day2の逆向き設計で骨組みを整えましょう。
具体的な状況に応じた設計支援が必要であれば、下記の相談窓口をご利用ください。