
親身なだけで終わっていませんか?講師としての仕事が表れる三つの場面
「話しやすいですね」「気持ちを分かってもらえてうれしいです」。そう言ってもらえることは、講師として励みになるでしょう。
ただ、その言葉だけで、講座の目的を果たせたと判断してよいでしょうか。相手が安心して話せたことに加えて、疑問が解消されたか、必要な説明を受けられたかも確かめたいところです。
Day2では、学ぶ側と教える側の役割の違いを整理しました。今回は、質問への回答、個人的な相談、講座の振り返りという三つの場面から、講師としての仕事を具体的に考えます。以下は、実在の相談事例ではなく、説明用の仮想ケースです。
場面1:受講者が「分かりません」と言ったとき
自分の気持ちを書き出すワークを行ったあと、受講者から「何を書けばよいか分かりません」と質問がありました。
講師は「私も最初はそうでした。焦らなくて大丈夫ですよ」と答えます。相手を安心させたい気持ちは伝わりますが、この返答だけでは、受講者はまだ書き始められないかもしれません。
どこで迷ったのかを確かめる
講師として次にできるのは、分からない部分を具体的にすることです。
「質問の意味が分かりにくかったですか。それとも、書きたいことが浮かばない感じでしょうか」と尋ねれば、説明を変える手がかりになります。
質問の意味が伝わっていなければ、言葉を言い換えます。書く内容が浮かばなければ、「今日、少しうれしかったことを一つ挙げるなら何ですか」と、答えやすい例を示せるでしょう。無理に書かず、考える時間を取る選択も用意できます。
ここで大切なのは、受講者に「できない原因」を決めつけないことです。「心を開いていないから」「受け取る準備ができていないから」と説明する前に、講師側の伝え方や手順を確かめてみてください。
場面2:講座の範囲を超える相談を受けたとき
講座の終了後、受講者から家庭の問題について詳しい相談がありました。講師にも似た経験があり、思わず自分が取った方法を勧めたくなります。
経験を話すこと自体が、いつも不適切とは限りません。ただ、似た経験があることと、相手の状況を判断できることは別です。話を聞いただけでは分からない事情もあるでしょう。
親身さと、対応できる範囲を両立させる
まず、相手が何を求めているのかを確かめます。気持ちを言葉にしたいのか、具体的な判断を求めているのかによって、必要な対応は変わります。
そのうえで、「この講座では気持ちを整理するための問いを扱っていますが、ご家庭の事情について結論を出すことはできません」と、自分の役割を伝えることもできます。
対応する時間や内容が別のサービスに当たるなら、その条件を先に説明し、本人が利用するかを選べるようにします。自分の専門範囲を超える場合は、適切な相談先を案内します。
相手に好かれたいという思いから、できないことまで引き受けていないでしょうか。親身であることは、すべてに答えることではありません。できることを明らかにし、その範囲で丁寧に対応する姿勢も大切です。
場面3:「楽しかったです」で講座を終えたとき
講座のあと、受講者から「楽しかったです」と感想をもらいました。講師は安心し、今回もよい講座だったと考えます。
楽しい時間を提供できたことは、喜んでよいでしょう。ただ、学ぶことを目的にした講座なら、楽しさに加えて、何を理解できたかも確かめたいところです。
感想と、学びの確認を分ける
たとえば、「今日の内容で、日常に取り入れられそうなことは何ですか」「説明が分かりにくかったところはありましたか」と尋ねます。
自分の言葉で内容を説明してもらう、短い練習を行うといった方法もあります。受講者を試すためではなく、講師の説明が届いていたかを確かめるためです。
理解しにくい部分が見つかったら、例を増やす、内容を絞る、説明の順番を変えるなど、次の講座に生かせます。「よい感想をもらえたか」だけでなく、「目的に沿った学びを支えられたか」を見ることが、仕事としての振り返りになります。
三つの場面に共通する、講師としての姿勢
質問にも相談にも感想にも、すぐに正解を返す必要はありません。まず相手の状況を確かめ、その場で必要な対応を選ぶことが大切です。
- 相手が何に迷い、何を求めているかを確かめる
- 講座の目的に合う説明や練習を用意する
- 自分が対応できる範囲を伝える
- 伝わったかを確認し、次の提供に生かす
私は、こうした対応に、講師としての仕事への認識が表れると思います。立派な肩書きを名乗ることより、目の前のやり取りで何をするかが大切です。
経験が浅くても、確認する、準備する、分からないことを認める、改善するという行動は取れます。反対に、経験が長くても、自分の体験だけを話して終わっているなら、提供の仕方を見直す余地があります。
今日の確認:最近のやり取りを一つ振り返る
受講者や相談者との最近のやり取りを一つ思い出して、次の問いに答えてみてください。個人を特定できる情報を書く必要はありません。
- 相手は、何を知りたかったのでしょうか?
- 私は共感に加えて、どんな説明や対応をしましたか?
- 相手の疑問が解消されたか、どう確かめましたか?
- 次に同じ質問を受けたら、何を変えたいですか?
「共感する言葉だけで終わっていた」と気づいたら、次に使える説明や例を一つ用意してみましょう。自分を責めるより、具体的な準備につなげることが、相手の役に立つ一歩になります。
よくある疑問
自分の体験を話すことは、控えたほうがよいですか?
講座の目的に合い、相手の理解を助けるなら、体験を話すことはできます。ただし、個人の経験として伝え、同じ結果を約束しないことが大切です。自分の話が長くなり、相手の質問への回答が抜けていないかも確かめましょう。
対応範囲を伝えると、冷たい講師だと思われませんか?
相手がどう感じるかを完全に決めることはできません。それでも、できることとできないことを丁寧に伝える必要があります。対応できる内容や別の相談先も示すと、相手は次の行動を考えやすくなります。
受講者が理解できなかったら、すべて講師の責任ですか?
理解には、受講者の経験や参加状況なども関係します。すべての結果を講師が引き受ける必要はありません。ただ、説明を変えられないか、内容や進め方が適切だったかを振り返ることは、講師として行える対応です。
まとめ
親しみやすさや親身さを、講師としての具体的な対応につなげていきましょう。質問には分からない部分を確かめ、相談には対応範囲を伝え、講座のあとには学びを確認する。その積み重ねが、クライアントの立場から提供者として仕事をするための土台になります。
次回は、自分の講座やセッションを仕事として整えるために、提供内容、説明、対応範囲を見直す手順を紹介します。
受講者への対応や講座の進め方を整理したい方は、LINEからご相談ください。今の提供内容を確認し、改善できるところを一緒に考えていきましょう。