
その言葉は愚痴ですか、相談ですか?講師が信頼を守るために確かめたい話し方
「困ったことを率直に話しているだけ」「親しみを持ってもらいたくて、自分の気持ちを伝えている」。
そう思っていても、聞く側には、講師の不満に同意したり、講師を慰めたりする時間として伝わっていることがあります。
同じ困りごとを話す場合でも、話す目的、相手、場所、伝え方によって、その意味は変わります。
Day1では、生徒さんやクライアントの立場から、講師の言葉を振り返りました。Day2では、愚痴、気持ちの共有、問題の報告、改善の相談を分けて考えます。
不満をすべて飲み込む必要はありません。必要なことを、必要な相手へ伝えるために、言葉の使い方を確かめていきましょう。
まず、自分は何のために話すのかを確かめる
不満を感じたときは、話し始める前に「私は、この話で何を求めているのか」と考えてみてください。
- 気持ちを聞いてもらいたい。
- 起きている問題を知らせたい。
- 相手の理解や事情を確認したい。
- 対応方法について意見がほしい。
- 相手に行動や条件の変更を求めたい。
目的がわからないまま話すと、相手は、聞くだけでよいのか、意見を出すべきなのか判断しにくくなります。
自分では気持ちを聞いてほしいだけなのに、相手から改善案を出されて、さらに不満を感じることもあるでしょう。
話す目的を明らかにすると、誰に、どのように伝えるかを考えやすくなります。
愚痴、気持ちの共有、報告、相談を分ける
ここでは、仕事での言葉を見直すために、四つの話し方に分けます。同じ会話の中に、複数の目的が含まれることもあります。
愚痴:不満や相手への評価を繰り返す話
「最近の生徒さんは真剣ではない」「何を言ってもわかってくれない」と、不満や評価を繰り返す話です。
その言葉だけでは、実際に何が起きているのか、何を変えたいのかがわかりません。
一度気持ちをこぼすことと、講座や相談のたびに同じ不満を聞かせることは、分けて考える必要があります。
気持ちの共有:自分の状態を伝え、聞いてもらう話
「今日は予定どおりに進まず、落ち込んでいます。少し話を聞いてもらえますか」と、自分の気持ちと求めていることを伝える話です。
聞く相手にも、時間や余裕があります。話してよいかを確かめ、相手が断れる形にします。
生徒さんやクライアントを、自分の感情を支えてくれる相手として当然のように扱わないことが大切です。
問題の報告:出来事と影響を知らせる話
「配布予定の資料がまだ届いていないため、明日の講座準備が止まっています」と、実際の出来事と影響を伝える話です。
改善案がなくても、問題を報告する必要がある場面はあります。解決策を用意できるまで、知らせずに待つ必要はありません。
改善の相談:確認や対応を一緒に考える話
「質問の時間が足りなかったので、次回は説明を短くし、練習後に質問の時間を設けたいです。進め方について意見をもらえますか」と、対応を考える話です。
自分の案がある場合も、相手が実行できるか、別の方法があるかを確認します。
相談は、自分の考えへの同意を求めるだけでなく、必要な情報や違う意見を聞くためにも使えます。
話す目的に合った相手を選ぶ
話の内容が同じでも、相手の役割によって適切な伝え方は変わります。
生徒さんには、学びに必要な説明や確認を伝えます。運営を手伝う人には、担当する仕事や準備上の問題を相談します。
自分の気持ちを整理したい場合は、話を聞くことに同意してくれる人や、適した相談先を選びます。
「親しいから」「いつも優しく聞いてくれるから」という理由だけで、相手の時間や役割を決めないようにしてください。
生徒さんが同意していても、負担がないとは限らない
生徒さんは、講師との関係を考えて、「聞きたくありません」と言いにくい場合があります。
話を合わせてくれることや、慰めの言葉をくれることだけで、安心して聞いていると判断しないようにします。
学びの時間に必要な話か、相手に同意や慰めを求めていないかを、講師自身が確認してください。
経験を共有するときは、学びにつながる内容を選ぶ
講師が自分の経験を話すことは、説明を具体的にする方法の一つです。
ただし、経験の共有が長くなり、相手への不満や自己弁護が中心になると、学びの目的から離れてしまいます。
話す前に、次の三つを確かめます。
- この経験は、今の説明にどう関係するか。
- 聞いた相手が、何を理解する助けになるか。
- 必要な内容だけを、短く伝えられるか。
実際の経験を話す場合も、ほかの生徒さんやクライアントが特定される情報、相談内容を不用意に出さないようにします。
説明のために例を作る場合は、架空の例であることを明らかにしてください。
説明用の例:同じ困りごとでも、伝え方を選べる
以下は、考え方を説明するための架空の例です。
ある女性講師が、講座中に同じ質問を何度も受け、予定していた練習の時間を取れなかったとします。
生徒さんに不満を聞かせる場合
「何度も同じ質問をされると困ります。前の生徒さんも、全然説明を聞いてくれませんでした。」
この言葉では、今回の参加者にどうしてほしいのかが十分に伝わりません。質問そのものを控えさせてしまう可能性もあります。
生徒さんに進め方を説明する場合
「残りの時間で練習を行いたいので、ここからの質問は練習後にまとめて確認します。始め方がわからない場合は、その場で声をかけてください。」
何を行い、いつ質問できるかを伝えています。すでに案内した進め方と違う場合は、変更の理由も説明します。
運営を手伝う人に相談する場合
「同じ手順への質問が続き、練習時間を取れませんでした。説明のどこで迷いやすいかを確認し、次回の資料を見直したいです。」
こちらは、出来事を整理し、説明を改善するための相談です。
同じ困りごとでも、目的と相手に合わせて話す内容を選べます。
悪循環を止めるには、決めつける言葉を見直す
「いつも」「誰も」「何をしても」といった言葉を使うと、違う対応を考える余地が見えにくくなることがあります。
たとえば、「誰も質問してくれない」と感じたら、「今回の講座では、説明後に質問が出なかった」と、確認できる出来事に戻します。
そのうえで、質問がない理由はまだわからないと考えます。理解できたのか、疑問を言葉にできないのか、質問する時間が短かったのかを確認できます。
また、「質問しない人は学ぶ気がない」と言えば、相手がさらに話しにくくなる可能性があります。
「実際に試してみて、迷ったところを教えてください」と伝え、確認する時間を取る方法もあります。
相手を決めつける言葉から、出来事を確かめる言葉へ変えると、次の対応を考える余地が生まれます。
好循環につなげる言葉は、行動と合わせて使う
「何でも聞いてください」と言っていても、質問にため息をついたり、話を途中で遮ったりすれば、相手は質問しにくくなります。
反対に、対応できる範囲を明らかにし、その範囲で丁寧に確認すれば、相手は相談の仕方を判断できます。
言葉を整えるときは、そのあとに自分がどう対応するかまで考えます。
- 質問を促すなら、質問を聞く時間を取る。
- 確認すると伝えたら、返答する目安を示す。
- 対応できない内容は、曖昧に期待させず説明する。
- 説明不足があったら、必要な部分を補う。
- 意見を求めたら、違う意見も一度聞く。
言葉だけで状況が必ずよくなるわけではありません。言葉と行動を合わせ、相手との理解を確かめることが大切です。
今日のワーク:話す目的と相手を決める
最近、誰かに話したくなった不満を一つ選び、次の項目を書いてください。
- 実際に何が起きましたか。
- 私は、どんな気持ちになりましたか。
- 聞いてもらいたいのか、報告したいのか、相談したいのか。
- その目的に合う相手は誰ですか。
- 相手に、どのような返答や対応を求めていますか。
- 生徒さんに伝える必要がある内容は、どこまでですか。
最後に、話し始めの一文を作ります。
気持ちを聞いてほしいなら、「少し話を聞いてもらえますか」。問題を報告するなら、「準備について確認が必要なことがあります」。相談したいなら、「次回の進め方について意見をもらいたいです」と始められます。
生徒さんに伝える必要のない不満は、講座や相談の時間へ持ち込まず、別の場で整理してください。
よくある質問
生徒さんとの雑談で、仕事の大変さを話すことも避けるべきですか?
短い近況の共有が、すべて問題になるわけではありません。相手に慰めや同意を求めていないか、ほかの人の情報を話していないか、学びの時間を使いすぎていないかを確認します。話したあとに、相手の目的へ戻ることも大切です。
率直に困っていることを伝えると、後ろ向きな講師に見えませんか?
問題を伝えることは必要です。相手への評価を繰り返すより、出来事と影響、確認したいことを具体的に話してください。明るく見せるために、問題を隠したり、守れない約束をしたりする必要はありません。
気持ちを整理するための相談でも、改善案が必要ですか?
必要とは限りません。まず聞いてもらいたいのか、対応を一緒に考えたいのかを伝えます。問題の原因や改善案がわからない段階でも、適した相手に相談できます。相手が聞ける時間や範囲も確認してください。
まとめ+要約
愚痴や不平不満ばかり言う講師にならないためには、話す目的と相手を確かめ、必要な内容を選ぶことが大切です。
- 愚痴、気持ちの共有、問題の報告、改善の相談を分けて考えます。
- 生徒さんやクライアントに、講師の感情を支える役割を求めないようにします。
- 経験を共有するときは、学びに必要な内容と長さを選びます。
- 決めつける言葉を、出来事や理解を確認する言葉に変えます。
- 言葉と、そのあとに行う対応を一致させます。
不満を感じたら、「誰かに話したい」の一歩先で、何のために、誰に伝えるのかを考えてください。
その確認が、生徒さんの学びの時間を守り、必要な相談や改善につなげる助けになります。
次回の予告
Day3では、講座中の発言、個別相談での会話、SNSでの投稿を取り上げます。愚痴が相手の負担になりやすい場面と、信頼を守る伝え方を、説明用の例で考えていきます。
講師としての話し方を整理したい方へ
「率直に話しているつもりでも、愚痴になっている気がする」「生徒さんに伝える内容と、別の場で相談する内容を分けたい」。そんな場合は、最近使った言葉と、話した目的を整理してみてください。
一人では整理しにくい方は、LINEからご相談ください。講座やクライアント対応で気になっている場面、見直したい内容をお伝えください。